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注目スタートアップ

Zuva’s redflag startups: 生成AIがEdTech業界に与える影響について

今月から始まるZuva’s red flag startupsは、かつて注目されていたスタートアップのその後についてZUVAアナリストが解説するコーナーです。”red flag”とは英語で「注意を喚起するサイン」であり、注目された後に音沙汰がなくなったスタートアップや大きくピボットしたスタートアップなどを紹介していきます。


OpenAI社のChatGPTをはじめとする生成AIの登場により、昨今業界を問わず様々な企業が大きな影響を受けている。本日はその中でも生成AIがEdTech業界(教育×テクノロジー業界)にもたらしている影響について、具体例を元に考察する。

生成AIの登場により48%の時価総額を失ったChegg

【企業名】:Chegg
【地域】:Santa Clara, California, United States
【設立年】:2005
【累計資金調達額】:$227.3M(2024年3月4日時点)
【直近ステージ】:Post-IPO Equity
【主な投資家】:Employee Stock Option Fund, Insight Partners, Kleiner Perkins, Primera Capital
【URL】:https://www.chegg.com/

(画像参照:https://en.wikipedia.org/wiki/Chegg#/media/File:Chegg_logo.svg)

(画像参照:https://www.chegg.com/mobile)

生成AIの登場により最も割を食ったと言っても過言ではないのが、アメリカ発のEdTech企業であるChegg社だ。生成AIの登場後、同社は一日で何と48%もの時価総額を失った。なぜそのようなことが起きたのだろうか。

3人の大学生が教科書の販売を目的とした大学生向けのオンライン掲示板を設立したことからビジネスをスタートしたChegg社は、その後現在同社の主要なサービスであるオンライン家庭教師をサブスクリプション型で提供するビジネスモデルに移行し、勢いを伸ばしてきた。サービス概要としては、学生と家庭教師をオンラインで繋ぐマッチングアプリである。学生は基本料金1分1ドルで家庭教師を利用でき、家庭教師側は1時間で20ドルの報酬を受け取る。その差額が同社の利益となる仕組みだ

日本よりも授業や宿題が厳しいことで知られるアメリカの大学生において、オンラインで24時間いつでも利用できるChegg社のオンライン家庭教師サービスはその利便性がたちまち評判となった。2013年にIPOをした際には当初時価総額11億ドルをつけ、その後新型コロナによるパンデミック下でも急速な成長をとげ、2021 年の時点でその評価額は 120 億ドルを超えた

しかし、生成AIの登場により、今彼らのビジネスモデルは根本から崩れ去ろうとしている。ChatGPT-4はSAT(アメリカの大学入試)で全学生の96%よりも好スコアを出すなど、教育/学習の領域においても際立った成果を示している。学生が宿題でわからないことがあれば、ChatGPTに質問すればものの数十秒でほぼ完璧な答えを返してくれる。AIが相手なのでわからないことがあれば何度でも遠慮なく質問できることも魅力的だろう。しかも、ChatGPTであれば無料~月20ドルで使用できるのだ。ChatGPTの登場後、Chegg社のユーザーだった多くの学生がChatGPTに乗り換えたことは想像に固くない。

そして2023年5月2日、事件は起こった。同社のCEOが決算会見の場で「ChatGPT に対する学生の関心が大幅に高まっていることがわかりました。現在では、それが当社の新規顧客の増加率に影響を与えていると考えています。」と述べ、合わせて今後の売上高の見通しをアナリスト予想よりも大幅に下回ることを伝えると、株価は敏感に反応し、先述の通りその日一日で48%もの時価総額を失う結果に至ったのだ。

生成AIとサービスを組み合わせサービス品質を向上させたEdtechスタートアップ Speak

しかし、EdTech企業の全てが生成AIによって悪影響を受けている訳では決してない。むしろ生成AIを取り込んで急成長している企業もある。例えば、AIとのオンライン英会話サービスを展開しているSpeak社は、OpenAI社からの技術提供を受けそのサービス品質を大幅に底上げし、現在はアクティブな有料会員を10万人以上抱える人気アプリに成長している。

【企業名】:Speak
【地域】:San Francisco, California, United States
【設立年】:2016
【累計資金調達額】:$74.03M(2024年3月時点)
【直近ステージ】:Venture Round
【主な投資家】:Figma,Josh Buckley, Justin Martin, Khosla Ventures, Lachy Groom, Notion, OpenAI Startup Fund, Y Combinator Continuity Fund
【URL】:https://www.usespeak.com

(画像参照:https://play.google.com/store/apps/details?id=com.selabs.speak&hl=en_US&pli=1)

(画像参照;https://app.usespeak.com/jp-ja/i/TUUYTS)

生成AIは、EdTech業界におけるビジネスモデルに対して多大な影響を与え、その進展を良い方向にも悪い方向にも加速させている。Chegg社の例は、既存のビジネスモデルが生成AIによって容易に代替され得るというリスクを明確に示している。一方で、Speak社の成功は、生成AIを自社のコア技術と組み合わせて活用し、サービスの質を向上させることで、ビジネスの成長を実現できる可能性を示唆している

今後の市場展望に目を向けると、生成AIの波に乗り遅れず、さらにはこれを自社の革新的な解決策に取り込むことができる企業が、競争上の優位性を確立し、持続可能な成長を遂げることができるだろう。この過程では、技術の適応性だけでなく、教育の価値を如何に高め、学習体験を革新するかが、成功の鍵を握るのではないか。EdTech企業は、生成AIを単なるツールとしてではなく、教育の未来を形作るための強力なパートナーとして捉え、そのポテンシャルを最大限に活用する必要があると考える。

Zuva Nicole

幼少期をデンマークと韓国にて過ごし、慶應義塾大学にて学士、ジュネーブ国際開発高等研究所にて修士。 世界最大の起業家支援ネットワークであるEndeavor Japanにて国内外のVCやスタートアップの調査業務に従事後、在欧州大使館にて日本企業支援を担当。150万社の先端的な技術を持つ企業データを保有する日本発スタートアップZUVAでは調査業務の他、パートナーシップデベロップメントやPR業務の統括を行う。

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