LOADING

Type to search

Featured 注目スタートアップ

Zuva’s redflag startups: 電気自動車革命の裏側:Britishvolt社の興亡から学ぶバッテリー産業の未来

世界的な脱炭素化の潮流を受け、電気自動車(EV)の普及が近年加速している。これに伴い、EVの心臓部とも言えるリチウムイオン電池を中心とするバッテリーの需要が爆発的に拡大している。国際エネルギー機関(IEA)の報告によると、2023年の世界のEV販売台数は前年比35%増の1,400万台に達し、新車販売台数の約18%を占めるまでに成長した。

この急激な成長に呼応し、バッテリー市場も急拡大している。調査会社リサーチステーションによれば、2023年の世界のEV用バッテリー市場規模は1,326億ドルに達した。今後も市場の平均年成長率は14.1%で拡大を続け、2033年には5,000億ドルを超える見通しである。今回の記事では、今ホットなバッテリー市場の中でも、特に注目を集めてる自動車用リチウムイオン電池の新技術の開発に挑んだとある新興企業について詳しく探っていく。

リチウムイオン電池は高エネルギー密度と長寿命という特性から、携帯電話やノートパソコンなどのポータブル機器に広く採用されてきた歴史がある。1990年代に商用化が始まり、2000年代に入ると自動車メーカーがEVの開発を本格化させたことで、リチウムイオン電池を中心とするバッテリー技術はさらなる進化を遂げた。2010年代には、テスラをはじめとするEVメーカーの台頭により、バッテリー産業並びにリチウムイオン電池は急成長期を迎えた。各国政府の環境規制強化や補助金政策も相まって、EVの普及とバッテリー需要は加速度的に拡大している。

この成長市場に果敢に挑戦したのが、イギリスのスタートアップ企業Britishvolt社である。2019年に設立された同社は、イギリス北部ノーサンバーランド州ブライスに巨大なバッテリー工場(ギガファクトリー)を建設する計画を発表し、一躍注目を集めた。同社の野心的な計画は、次世代リチウムイオン電池の開発に注力し、高エネルギー密度と急速充電能力を実現する技術を保有していた点で高く評価された。また、再生可能エネルギーを100%使用する工場運営を目指し、環境負荷の低減を重視した点も注目を集めた。さらに、工場建設により3,000人の直接雇用と5,000人の間接雇用を創出する計画は、地域の期待も高めた。

【企業名】:Britishvolt
【地域】:London, England, United Kingdom
【設立年】:2019年
【累計資金調達額】:$2.43B
【直近ステージ】:convertible_note
【主な投資家】:Scorpio Group, Bank of America
【URL】:N/A

イギリス政府から1億ポンド(約150億円)の支援を取り付けるなど、官民一体となったプロジェクトとして注目されたBritishvolt社は、2021年に自動車メーカーのアストンマーチンやロータスとの提携を発表し、高級EVセグメントでの競争力強化を図った。これらの動きにより、同社の株式評価額は一時10億ポンド(約1,500億円)を超え、イギリスのユニコーン企業として称賛された。

しかし、華々しい船出とは裏腹に、Britishvolt社の夢は短期間で崩壊することとなる。2023年1月、同社は破産管財人の管理下に入り、事実上の経営破綻に陥ったのだ。

Britishvolt社の失敗には、複数の要因が絡み合っていた。まず、巨額の投資を必要とするギガファクトリー建設に対し、十分な資金を確保できなかったことが最大の原因である。実は先のイギリス政府からの支援金については、その取得条件の達成に失敗し、予定されていた1億ポンドの支援が受けられなかったのである。また、技術面では、次世代電池の開発に注力していたものの、結局実用化には至らず、量産体制を確立できなかった。

さらに、大手自動車メーカーとの長期供給契約を締結できず、安定的な収益源を確保できなかったことも致命的だった。経営陣の頻繁な交代や、過度に楽観的な事業計画が投資家の信頼を損ねたことも、失敗を加速させた要因となった。加えて、インフレや金利上昇、エネルギー価格の高騰など、マクロ経済環境の悪化が事業計画を直撃した。

Britishvolt社の失敗は、急成長するバッテリー産業においても、基本的なビジネス原則の重要性を再認識させる事例となった。この経験から、他のバッテリー関連企業は多くの教訓を学ぶことができるだろう。

まず、巨額の初期投資を必要とするバッテリー産業では、長期的かつ現実的な資金計画が不可欠である。政府支援や補助金に過度に依存せず、多様な資金源を確保することが重要だ。また、革新的な技術開発は重要だが、同時に量産体制の確立も不可欠である。加えて、顧客基盤の構築も重要な課題だ。大手自動車メーカーとの長期供給契約は、安定的な収益源となる。早期段階から顧客との関係構築に注力し、具体的な需要を見据えた事業展開が必要である。さらに、市場環境の変化に対応できる柔軟な事業戦略も重要だ。需要の変動や技術トレンドの変化に迅速に対応できる体制を整えることが求められる。

バッテリー産業は今後も大きな成長が見込まれる分野だが、同時に競争も激化している。Britishvolt社の事例は、華々しい計画だけでは成功できないことを示している。高度な技術力と、安定した顧客基盤を両輪で獲得し、磨き上げていくことが、この産業で生き残るための鍵となるだろう。

出典

https://newscast.jp/news/4776536

https://www.gov.uk/government/news/government-backs-britishvolt-plans-for-blyth-gigafactory-to-build-electric-vehicle-batteries

https://www.batterytechonline.com/market-analysis/britishvolt-bankruptcy-what-went-wrong

https://www.theguardian.com/business/2022/nov/02/britishvolt-staves-off-collapse-with-extra-funding-and-steep-staff-pay-cut

https://www.chemistryworld.com/news/uk-battery-industry-plans-running-down-as-britishvolt-fails/4017099.article

Zuva Nicole

幼少期をデンマークと韓国にて過ごし、慶應義塾大学にて学士、ジュネーブ国際開発高等研究所にて修士。 世界最大の起業家支援ネットワークであるEndeavor Japanにて国内外のVCやスタートアップの調査業務に従事後、在欧州大使館にて日本企業支援を担当。150万社の先端的な技術を持つ企業データを保有する日本発スタートアップZUVAでは調査業務の他、パートナーシップデベロップメントやPR業務の統括を行う。

  • 1