Zuva’s red flag startups: イーロン・マスクが提唱するハイパーループ構想の現在地
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Zuva’s red flag startupsは、かつて注目されていたスタートアップのその後についてZUVAアナリストが解説するコーナーです。”red flag”とは英語で「注意を喚起するサイン」であり、注目された後に音沙汰がなくなったスタートアップや大きくピボットしたスタートアップなどを紹介していきます。
イーロン・マスクは、電気自動車のテスラや宇宙探査のスペースXなど、数々の革新的なプロジェクトで成功を収めてきており、彼が稀代の起業家であることを疑う者はいないだろう。しかし、彼が2013年に発表した夢の高速輸送システム「ハイパーループ」に関しては、現在暗雲が立ち込めている。本記事では、ハイパーループ構想の歴史とその現在の停滞状況について詳しく探る。
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【企業名】:Virgin Hyperloop
【地域】:Los Angeles, California, United States
【設立年】:2014/01/01
【累計資金調達額】:$368.43M
【直近ステージ】:Venture Round
【主な投資家】:Virgin Group, Flux Capital, Taihill Venture, China Investment Corporation
【URL】:null(倒産したためHP無し)
2013年にイーロン・マスクが提唱したハイパーループ構想は、チューブ内を高速で移動するカプセルによって、都市間を短時間で結ぶことを目指している。チューブ内は真空に近い状態であり、空気抵抗がないため最高速度は理論上時速1000~1200kmにもなるといい、これはJR東海が建設中のリニアモーターの2倍以上の速度にあたる。この革命的なアイディアは、発表当初から大きな注目を集め、多くの企業や研究機関が開発に参入した。その結果、2017年にはネバダ州での試験走行で時速387kmを記録するなど、技術的な進展も見られた。これにより、ハイパーループの実現が現実味を帯び、人々の期待は高まっていた。
ハイパーループビジネスの中で最も著名なスタートアップがVirgin Hyperloop社である。2014年にHyperloop Technologiesとして設立されたこの企業は、後にリチャード・ブランソン率いるVirginグループの一部となった。Virgin Hyperloop社は、実証実験や試験走行を他社に先駆けて重ねており、先のネバダ州での試験走行も同社によって行われている。こうした技術的な可能性をいち早く世界に示したことで、投資家や公共機関からの注目を集めていた。
しかし、その後Virgin Hyperloop社は数々の課題に直面していくこととなる。そのうちの代表的なものとして、資金調達の難航が挙げられる。ハイパーループの実現には莫大な資金が必要であるが、特に新型コロナウイルスのパンデミックにより投資環境が厳しくなった。結果としてハイパーループ関連企業の中で最も多額の資金調達を行っていた企業の一つである同社でさえ、開発を続けるためのさらなる資金確保が困難になった。また、技術的な課題も多い。ハイパーループの技術は非常に高度であり、実現には多くの技術的課題を克服する必要がある。例えば、真空チューブ内での安全性確保や、超高速での移動による人体への影響など、現時点で解決できていない問題が未だ山積している。また、そもそものハイパーループのコンセプト自体に対しても疑問の声が上がっている。例えば人や荷物を運ぶカプセルには1つあたり10~30名分のキャパシティしかないとされており、ハイパーループは本当に利便性が高いのか、あるいは経済的にペイできるのかが疑われている。
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このようにハイパーループを巡る状況に好転の兆しが見られない中で、Virgin Hyperloop社は2023年末についに解散に追い込まれる事になった。同社は多額の資金を調達し、革新的な輸送システムの実現を目指していたものの、最終的にはその目標を達成することができなかった。この解散は多くの投資家や関係者に衝撃を与え、ハイパーループ構想全体に対する信頼を大きく揺るがす結果となった。
ハイパーループの実用化を成し遂げられそうな企業が現状見当たらない中、今後ハイパーループ構想を再び勃興させるためには、各企業、投資家、自治体がそれぞれの役割を大きく見直す必要があるだろう。まず、企業は現在失墜しつつあるハイパーループのコンセプトそのものを再度磨き込むと共に、改めて技術的課題の克服に向けた研究開発を地に足を付けて進めるべきではないか。また、投資家は短期的なリターンに固執せず、プロジェクトの可能性を信じて覚悟を持って長期的に企業を支えるべきだ。さらに、自治体は規制の見直しやインフラ整備に協力し、ハイパーループの実現に向けた環境を整える必要がある。具体的には、試験運行に必要な土地や施設の提供、技術検証のための規制緩和、そして公共交通機関との連携などが考えられる。ハイパーループに関わる各プレイヤーの今後の動向に注目しつつ、彼らが再びハイパーループの未来を切り拓くことが期待される。