LOADING

Type to search

Featured 注目スタートアップ

Zuva’s red flag startups: 「スタバ超え」を狙うアジア発コーヒーチェーンの勃興と終

Zuva’s red flag startupsは、かつて注目されていたスタートアップのその後についてZUVAアナリストが解説するコーナーです。”red flag”とは英語で「注意を喚起するサイン」であり、注目された後に音沙汰がなくなったスタートアップや大きくピボットしたスタートアップなどを紹介していきます。


近年、ITを駆使した新興コーヒーチェーンの熾烈なシェア争いがアジア各国で展開されている。一部の企業はスターバックスさえ凌駕する店舗数を急速に展開している一方で、市場環境に適応できず撤退を余儀なくされている企業もある。今回の記事では、その中でも代表的な2社の事例を取り上げ、その刺激的なビジネスの裏側の一端を伝える。

まず、初めに紹介するのは中国発祥のラッキンコーヒー社(以下、ラッキン社)である。この企業は数年前から多くのビジネス誌で取り上げられているため、知っている読者も多いかもしれない。ラッキン社は2017年に創業し、2018年に1号店を出店。翌2019年にはその数を2000以上に伸ばし、同年にはアメリカでのIPOを達成した。このような成長を遂げた裏には、ITを活用したユニークな拡大戦略がある。

【企業名】:Luckin Coffee
【地域】:Xiamen, Fujian, China
【設立年】:2017
【累計資金調達額】:$1.58B
【直近ステージ】:Post-IPO Equity
【主な投資家】:Joy Capital, Centurium Capital, GIC
【URL】:https://www.luckincoffee.com/

(画像:https://www.yicaiglobal.com/news/china-luckin-coffee-is-expanding-despite-covid-19-logs-724-jump-in-second-quarter-revenue)

戦略の一つ目の特徴として、モバイルアプリを中心とした購買体験が挙げられる。居心地の良い環境を提供するスターバックスとは反対に、ラッキン社の店舗はほとんどが持ち帰り販売を前提とした設計となっており、実際に同社の店舗の90%以上が小さなキオスク型だ。消費者は専用アプリのダウンロードが必須となっており、アプリ上で注文し支払いまで完了できるため、後は店舗に来てコーヒーを持って帰るだけである。また、格安でのデリバリーサービスも引き受けており、そもそも店舗にすら行かないという顧客も少なくない。この戦略により人通りのない場所に店を構えることができるため、出店コストを大幅に引き下げることが可能となっている。

二つ目の特徴として、専用アプリを活用した大胆なマーケティング戦略が挙げられる。例えば同社は先述の独自アプリを通して消費者に対してクーポンを高頻度に配信している。1杯買うともう1杯無料になるクーポンから、個人ごとに最適化した割引クーポンまで様々な特典を提供し、最終的には大きなカフェラテがわずか10元(200円強)になることも一時期は珍しくなかったという。

こうしたIT×コーヒーチェーンの先駆者として華々しい成長を遂げているかに思えた当社は市場からも大きな称賛を受けていた矢先、2020年に事件が起きた。投資会社であるマディ・ウォーターズ社が、ラッキン社が3億ドル以上の売上を粉飾していることを暴いたレポートを発表すると、同社の株価はたちまち急落し、創業メンバーは退任に追い込まれたのである。割引をしすぎたことにより赤字が状態化していた企業体質と、急激な出店拡大に伴い店舗同士のカニバリズムが発生してたことが主な背景にあると言われている。

時を少し戻して2019年の4月、シンガポールにもITを駆使したコーヒーチェーンがドイツ人CEOにより立ち上げられた。この企業は名をフラッシュコーヒー社(以下フラッシュ社)といい、ラッキン社と同じく専用アプリを通した注文システムや、安いデリバリー、お得なポイントシステムを売りに、急拡大を遂げるかに見えた。実際にフラッシュ社は2022年時点でアジア6か国で250店舗を展開するに至り、店舗数こそ当時のラッキン社の勢いには及ばないものの、グローバル展開の早さを中心に業界では注目を集めていた。

【企業名】:Flash Coffee
【地域】:Singapore, Central Region, Singapore
【設立年】:2019
【累計資金調達額】:$70.03M
【直近ステージ】:Series B
【主な投資家】:Al-Dhow Engineering, Citadel, Conny & Co
【URL】:https://flash-coffee.com/id/

(画像: https://turncapital.io/2023/11/21/news-releaseturn-capital-acquires-flash-coffee-in-thailand/)

しかし、彼らの成長が急減速するのもまた早かった。2023年5月に台湾の全店舗の撤退を決定した後、同年10月には本国シンガポール全店舗も立て続けに閉鎖を発表。一部の国では経営を継続するとみられているが、当初の勢いは見る影もなくなってしまった。

フラッシュ社の失敗の原因としては、①同社のアプリの完成度が競合他社と比較して並外れて高いものではなかった点、②創業メンバーにアジア出身者がおらず市場に不慣れであった点、③市況悪化時にも出店ペースを抑えなかったためにキャッシュフローが悪化した点、等々様々な理由が挙げられているが、①②③の複合的な要因であると考えられる。現在ではスターバックスもアプリ開発を進めるなど、アプリそのものはもはや差別化要素ではなくなっている中で、フラッシュ社独自の強みはほとんど無いに等しかったのだ。

最後に、ラッキン社の現在地をもう一度見てみる。不正決算発覚後のラッキン社は、破産することはなく今でも中国でビジネスを継続し、むしろ方針を転換することで再成長を遂げつつある。同社は従来の割引情報を一方的に伝えるようなマーケティングを縮小し、店舗ごとにWeChatコミュニティを設け消費者との交流も進めらるような双方向のマーケティング施策を推し進め、今まで機械的な印象が強かった同社のイメージを刷新しようとしている。加えて、値引き幅を抑え確実に利益が残るビジネスモデルを再構築した同社は着実な売上成長を見せており、2023年には年間売上高248億6000万元(約520億円)となり、ついにスターバックスの中国における売上を追い抜くことに成功した。

(画像:https://www.thinkchina.sg/economy/luckin-challenger-pushes-chinas-coffee-price-war-towards-boiling-point)

近年では今回の2社以外にも、ラッキン社の元経営陣が新たに立ち上げたコッティ コーヒー社を初めとするLow-costコーヒーセグメントを狙うプレイヤーが急激に増えており、競争は熾烈を極めている。そうした厳しい環境下でもさらなる成長を維持するためには、既存の顧客層を維持したままpremiumコーヒーセグメントにも事業を展開をしてことや、あるいは既存のビジネスモデルをスターバックスのように多国籍展開をしていくことが求められるのではないだろうか。変化の著しいコーヒーチェーン市場の今後に引き続き注目していきたい。

Zuva Nicole

幼少期をデンマークと韓国にて過ごし、慶應義塾大学にて学士、ジュネーブ国際開発高等研究所にて修士。 世界最大の起業家支援ネットワークであるEndeavor Japanにて国内外のVCやスタートアップの調査業務に従事後、在欧州大使館にて日本企業支援を担当。150万社の先端的な技術を持つ企業データを保有する日本発スタートアップZUVAでは調査業務の他、パートナーシップデベロップメントやPR業務の統括を行う。

  • 1