トップ大学スピンアウトスタートアップにZoom Inシリーズ:EPFL
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こちらの記事シリーズではスタートアップを多く輩出している著名大学のスピンアウト企業を取り上げていく。今回は本記事でも取り上げたことのあるETH Zurichの姉妹校である、【EPFL】について、スタートアップ輩出のための仕組みを紐解いていく。
EPFL
EPFLは、スイス西部にあるローザンヌに位置し、工学、物理学、計算機科学、生命科学など自然科学や技術系の学問に強い世界的に名門の技術系大学。EPFLの始まりは1853年、11人の生徒が最初の授業を受けた記録があり、化学、物理学、数学、絵画、建築、土木工学などのカリキュラムを受講した歴史が残っている。バイオロボティクスやナノテクに強みを持ち、AI関連ではコンピュータ・通信科学学部にAI・ML学科、データマネジメント学科が存在する。AI技術に関する研究のためマイクロソフトがETH、EPFLと共同研究を行い、研究活動と人材確保を同時に行っていると言われており、その研究力と人材輩出力が伺える。
歴史だけでなく世界ランクトップ25にランクインする世界屈指の名門EPFLでは、スタートアップ輩出に向けどういった仕組みで支援しているのか、本記事ではその仕組みといくつかのスタートアップを紹介していきたい。
EPFLの起業家エコシステム
同大学のエコシステムに寄与する団体は主に2つあり、それぞれ概要に触れていく。
EPFL Startup Launchpad
主に研究者やラボ所属の学生が起業をする際にお世話になる、大学がサポートする公的組織。
Ignition Grants(最大6ヶ月、CHF30K)やInnogrants(最大1年間、CHF100K)の財政面での援助や、開発過程のサポート(事業化におけるリスク分散アドバイスやインターン人材手配など)を行っている。大学の高い技術力を社会還元すべく、アカデミアとビジネスの橋渡し的役割を担う。
EPFL Innovation Park
2015年に設立されたスイスイノベーションが仕掛けるイノベーションパークの1つ。
コワーキングスペースや研究施設、会議室など研究機関と企業に必要な設備を提供する。
また、スタートアップにおいてコアとも言える提供価値のブラッシュアップ、戦略策定のサポートなども行っている。資金面では実績として合計250社、10億CHFのファンディングしており、多岐にわたる側面からスタートアップのサポートで貢献している。
https://www.joi.or.jp/wp-content/uploads/2022/10/Mag_202003_17_spotSwiss.pdf
https://sciencebusiness.net/network-updates/epfl-startups-forge-ahead-despite-economic-headwinds
EPFLの2023~24年輩出スピンアウト企業
EPFLは、上述のサポート体制とエコシステムを踏まえることで2023年から2024年までに44社のスタートアップを輩出した。今回はZUVAのデータベースを活用して同期間のスピンアウト企業をまとめたカオスマップを作成した。
次のカオスマップの主要なカテゴリは次の6つに分類されている。
・Cleantech:再生可能エネルギーや空気質改善など、環境貢献を提供価値とする企業群
・Artificial Intelligence:AIとデータ分析に特化した企業群
・Engineering:宇宙産業やドローン、スマートビルディングなど工学分野での貢献をする企業群
・Digitaltech:遺伝とデータ分析に関するサービス提供企業
・Medical: 医療分野の新興企業群
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注目すべきEPFL スピンオフ スタートアップ5選
ZUVA編集部にて2023年から2024年にEPFLからスピンアウトしたスタートアップの中で注目の企業を5社ピックアップしました。
- Emissium【Cleantech】電力による二酸化炭素排出量のリアルタイムデータを提供
- askEarth【Artificial Intelligence】AIを用いて企業がEUDRに適合するサポートツールを提供
- Elythor【Engineering】ドローンを活用した電力インフラの点検を実施
- Maven Health 【Digitaltech】唾液を生体液として使用し代謝健康を測定する技術を医療従事者へ提供
- Onescope【Medical】呼吸器疾患の検出と管理を分散化するAI搭載医療機器の提供
Emissium【Cleantech】電力による二酸化炭素排出量のリアルタイムデータを提供
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【企業名】Emissium
【ラウンド】Grant
【設立年】2022年
【業種】#Energy #Information Technology
【投資家】EPFL
【主要拠点】Sion, Valais, Switzerland
【累計資金調達額】$106.03K
(画像参照:https://www.emissium.io/)
CEOのRafaelはEPFLでエネルギー分野の博士号を取得した後Emissiumを起業しており、EPFLのアカデミアとビジネスのマッチングを体現している。同社のソリューションは15分間隔で地域別の二酸化炭素排出量をデータとして可視化するツールを提供しており、企業や行政がデータに基づいた環境負荷低減につながる意思決定を促進することに貢献することを目的としている。
askEarth【Artificial Intelligence】AIを用いて企業がEUDRに適合するサポートツールを提供
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【企業名】askEarth
【ラウンド】pre_seed
【設立年】2023年
【業種】#Geospatial #Information Technology #Location Based Services
【投資家】Venture Kick, S2S Ventures
【主要拠点】Zürich, Zurich, Switzerland
【累計資金調達額】$175.25K
(画像参照:https://www.ask.earth/)
askEarthは衛星画像から得た環境情報を、AIを用いて分析した環境データが閲覧可能なプラットフォームに提供する。EUの「サプライチェーンデューデリジェンス規則(EUDR)」の効率的達成に貢献する。EUDRは企業に対して環境破壊への対策を取る義務を課しており、サプライチェーンでのトレーサビリティ向上、企業活動の環境リスク評価、企業のサステナビリティに関するパフォーマンスをモニタし分析することで企業の規制遵守に貢献する。
Elythor【Engineering】ドローンを活用した電力インフラの点検を実施
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【企業名】Elythor
【ラウンド】Grant
【設立年】2023年
【業種】 #Drone management # Drones
【投資家】InnoBooster
【主要拠点】Lausanne, Vaud, Switzerland
【累計資金調達額】$168.12K
(画像参照:https://elythor.com/)
Elythorは多様な技術が詰め込まれたドローンを開発する。彼らのテクノロジーは、マルチコプター、固定翼ドローン、飛行中のシェイプシフト*を組み合わせ、電力インフラの複雑な空間や長距離の点検を行うことができる、機敏で正確、かつ堅牢なロボットを実現する。バッテリー低消費、夜間でも撮像可能カメラ、10m/sでも航行可能な耐風能力を用い、最大40%のオペレーションコストダウンと35%の時間短縮を可能にする。*航行中に機体を変形させ効率的な飛行に貢献する機能。
Maven Health 【Digitaltech】唾液を生体液として使用し代謝健康を測定する技術を医療従事者へ提供
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【企業名】Maven Health
【ラウンド】Grant
【設立年】2024年
【業種】 #Analytics # Artificial Intelligence (AI) #Health Care
【投資家】EPFL Inno Park, EPFL, Future of Health Grant, Venture Kick., DayOne
【主要拠点】Lausanne, Vaud, Switzerland
【累計資金調達額】$492.51K
(画像参照:https://www.mavenhealth.ch/en)
唾液を用いて独自の分析方法で自身の代謝健康を測定する技術を開発する。Maven Healthのソリューションは、医療従事者が最小限の侵襲性と競争力のあるコストで個人のメタボリックヘルスを評価するためのエンドツーエンドで展開される。高感度核磁気共鳴スペクトロメーターと呼ばれる独自の分析方法で代謝物を測定しており、医療従事者向けに使いやすく直感的なデータプラットフォームで提供。
Onescope【Medical】呼吸器疾患の検出と管理を分散化するAI搭載医療機器の提供
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【企業名】Onescope
【ラウンド】Grant
【設立年】2024年
【業種】 #Manufacturing
【投資家】Future of Health Grant
【主要拠点】Geneva, Geneve, Switzerland
【累計資金調達額】$10.88K
(画像参照:https://onescope.ch/)
呼吸器疾患の検出用に活用されるAI搭載デバイスを開発。体につけるデバイスで肺音&呼吸数、血液酸素飽和度と心拍、体温の検出を行い、測定データを専用APPに出力する。APP内ではAIベースのアルゴリズムで呼吸音響シグネチャーのリアルタイム分析を行うことで病気の重症度や最適な治療方法の提案に繋げ、診断コスト削減や患者の早期回復を改善することに貢献する。
このように、あらゆる分野でアカデミアとビジネスを繋げるような体制を保ちながらスタートアップ創出に貢献するEPFLは、学術機関としてだけではなく社会的側面での価値提供と貢献をより広げている。高い専門的知識とそれらを活かしたビジネスの創出を続けるEPFLは、今後どのように更なる進化をしていくのだろうか。今後も注目したい。