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電力革命の新たな一歩 – 小型モジュール炉(SMR)の挑戦と未来

Zuva’s red flag startupsは、かつて注目されていたスタートアップのその後についてZUVAアナリストが解説するコーナーです。”red flag”とは英語で「注意を喚起するサイン」であり、注目された後に音沙汰がなくなったスタートアップや大きくピボットしたスタートアップなどを紹介していきます。


近年、電力に関する問題がますます大きくなっている。人口増加や生成AIのブームに伴い電力需要は急増している一方、脱炭素の潮流により火力発電には厳しい目が向けられている。この状況下で、いかにCO2を出さずに効率的な電力供給を実現するかが重要な課題となっている。CO2を排出しない発電方法としては、大きく原子力を用いた発電と再生可能エネルギーを用いた発電(太陽光発電や風力発電等)がある。今回の記事では、原子力発電の中でも、特に注目を集めてる小型モジュール炉(SMR)について詳しく探っていく。

SMR(Small Modular Reactor)は、その名の通り「小型」であり、「モジュール」化が可能な点が特徴である。原子炉を小型化することで、冷却が容易になり、安全性が向上する。また、工場である程度まで製造し、現地では組み立てのみを行うモジュール方式により、コスト削減や工期の短縮が期待される。

【企業名】:NuScale Power
【地域】:Corvallis, Oregon, United States
【設立年】:2007/01/01
【累計資金調達額】:$469.65M
【直近ステージ】:Post-IPO Equity
【主な投資家】:IHI Group, Samsung C&T corporation, Spring valley Acquisiton, JGC Holdings Corporation, JBIC
【URL】:https://www.nuscalepower.com/en

このSMRを開発する企業のパイオニアが、米国のNuScale社だ。2000年にオレゴン州立大学とアイダホ国立研究所の核科学者チームにより研究が開始され、2007年に会社が設立された。NuScale社は2008年から日本企業を含め多くの投資家から資金調達を進め、徐々に技術を成熟させていき、2020年には米国原子力規制委員会(NRC)からSMRとして史上初の設計安全性認証を受けた。さらに、2022年には特別買収目的会社(SPAC)*と合併し米国で上場を果たした。これはSMR専業メーカーとして初の上場であり、同社の技術力と市場からの期待の高さを示している。*SPACは未上場企業の買収のための上場会社であり、買収される企業はSPACと合併すれば新規株式公開(IPO)より短期間で上場できる。

NuScale社の強みは、技術的な優位性と先行者利益にある。技術的な優位性については、NuScale社の原子炉設計が独自の安全性と運転上の利点を提供する点にある。同社のモジュール設計は、他のモジュールが運転を続けている間に個々のモジュールに燃料を補給することが可能で、高い信頼性と可用性を実現する。また、ポンプを必要とせず自然対流のみで炉心内に冷却水を循環させる技術も開発しており、安全性と効率性を同時に高めている。こうした技術的優位性により、NuScale社はSMRを単なるコンセプトから実際の装置へと進化させることができた。

先行者利益については、NuScale社は他社に先駆けて技術を確立し、多くの投資を集めることに成功している。同社は、日本の日揮ホールディングス社やIHI社を含む、多くの投資会社や事業会社からの投資を受けるとともに、米国エネルギー省からも総額13億米ドルを超える資金支援を受けている。特に事業規模の性質上、公的な資金を受けられる企業についてはその数が限られていることを考えると、NuScale社は先行者利益を大いに享受できている数少ない企業であると言える。

しかし、順風満帆に見えた同社にも困難が訪れている。2023年11月には、ユタ州電力公社(UAMPS)との契約が終了することが発表された。安全性の問題から設計の見直しが必要となった結果、コストが大幅に上昇し経済的に採算が取れないと判断されたためだ。具体的には、設計には本来必要とされていた漏れのない格納容器構造と信頼性の高いバックアップ安全システムが欠けていたとされている。また、原子力規制委員会(NRC)は通常、制御室1室につき原子炉ユニットを2台までしか運営を認めていないが、NuScale社の設計では制御室1室に対して原子炉ユニットを12台設置している点にも指摘が入った。このため、追加の開発が必要となり、当初の目標電力価格1メガワット時あたり58ドルが89ドルにまで大幅に上昇し、採算が取れなくなってしまったのである。

そうした逆境の真っただ中にあるNuScale社だが、現在でも上場を維持し、引き続きSMRの商用化を目指して奮闘を続けている。UAMPSとの契約終了後の動きとしては、2024年1月にポーランド国家原子力庁(PAA)がNuScale社の技術を承認するなど、国際市場での展開が進みつつある。UAMPSの一件では問題を露呈する形とはなったが、SMRのフロントランナーであり多数の技術優位性を持つ同社は引き続き業界からの期待は大きいのだろう。

電力問題は特定の業界だけでなく、我々全人類の生活に直結する重大な課題である。NuScale社のSMR技術は、効率的で安全な電力供給を実現する可能性を秘めている。UAMPSプロジェクトの中止が同社の財務面に大きな影響を与えたことは痛手であったが、同社にはぜひとも改めて安全性を見つめ直したうえで、投資家やパートナー企業からの信頼を取り戻し、SMRを商用化を実現することで、世界の電力問題の解決に貢献してもらいたい。

出典

https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/smr_01.html

https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/genshiryoku/kakushinro_wg/pdf/002_06_00.pdf

https://www.chuden.co.jp/publicity/press/1211804_3273.html

https://www.ucsusa.org/about/news/small-nuclear-reactor-contract-fails-signaling-larger-issues-nuclear-energy-development

https://www.energyintel.com/0000018b-cf50-dbb5-a5ef-df7378750000

Zuva Nicole

幼少期をデンマークと韓国にて過ごし、慶應義塾大学にて学士、ジュネーブ国際開発高等研究所にて修士。 世界最大の起業家支援ネットワークであるEndeavor Japanにて国内外のVCやスタートアップの調査業務に従事後、在欧州大使館にて日本企業支援を担当。150万社の先端的な技術を持つ企業データを保有する日本発スタートアップZUVAでは調査業務の他、パートナーシップデベロップメントやPR業務の統括を行う。

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