Zuva’s red flag startups: 欧米と日本におけるシェアリング電動キックボード事業の現在
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Zuva’s red flag startupsは、かつて注目されていたスタートアップのその後についてZUVAアナリストが解説するコーナーです。”red flag”とは英語で「注意を喚起するサイン」であり、注目された後に音沙汰がなくなったスタートアップや大きくピボットしたスタートアップなどを紹介していきます。
最近では日本でも都心部を中心によく見かけるようになった電動キックボード。そのシェアリング事業は、2010年代後半にアメリカを中心に急速に拡大した。車と比べ環境に優しく、短距離移動に最適なこの新しい移動手段は、特に都市部での渋滞緩和やCO2削減を目指し、多くの都市で導入されつつある。調査会社Grand View Researchによれば、2021年の世界市場規模は約9億2,530万米ドル(約1456億円)に達し、今後も都市部の交通渋滞解消や環境意識の高まり、スマートフォンの普及を追い風に2028年までに年平均成長率(CAGR)18.8%で成長すると予測されている。
電動キックボードの需要の高まりに伴い、ここ数年Lime社やSpin社を始めとする多くのスタートアップ企業が市場に新規参入する中で、過熱する競争についていけず倒産に至る企業も少なくない。今回はその代表とも言えるBird社に焦点を当てていく。
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【企業名】:Bird
【地域】:Santa Monica, California, United States
【設立年】:2017/01/01
【累計資金調達額】:$916M
【直近ステージ】:Post-IPO Debt
【主な投資家】:Travis VanderZanden, Shane Torchiana, Yorkville Advisors, Fidelity
【URL】:https://www.bird.co/
シェアリング電動キックボード事業のパイオニアであるBird社は、2017年に元Uber社およびLyft社の幹部トラビス・ヴァンダーザンデン氏によって設立された。ロサンゼルスを拠点にスタートし、翌年には時価総額10億ドルに達し史上最速でユニコーン企業の仲間入りを果たすと、その後もわずか数年でアメリカの大都市や、パリやバルセロナといった欧州主要都市に進出し、市場をリードする企業となっていった。
Bird社の成長の鍵は、その手軽さと利便性にあった。スマートフォンのアプリを使って最寄りのキックボードを検索し、簡単にレンタルと返却ができる仕組みをいち早く提供。また、都市部の渋滞解消や環境負荷の軽減といった社会的課題に対応するビジネスモデルとしても高く評価された。
しかし、急成長には数多くの問題も伴う。まず、同社を取り巻く外部環境の厳しさが急激に増していくこととなった。多くの都市で電動キックボードの安全性や利用ルールについての整備が追いつかず、事故や違法駐車などが頻発した。その結果、各州の当局はより厳しい規制を敷くこととなり、例えば、サンフランシスコ市では違反者に対し本人と運営企業の両者に対して高額な罰金を貸すという罰則を新設することとなった。さらに、新型コロナウイルスのパンデミックも大きな打撃となった。都市のロックダウンにより需要が激減し、財務状況が悪化。2020年にはBird社は約30%の従業員を解雇し、拠点の一部を閉鎖することを余儀なくされた。また、他社との急激な競争激化も同社にとって痛手だった。同じくカリフォルニアを中心に事業展開をするLime社やSpin社などの競合他社が台頭し、価格競争が激しくなったことで利益率が低下。結果として、Bird社はさらなる従業員解雇や拠点の閉鎖を余儀なくされた。
加えて、同社の内部的な問題も経営悪化に追い打ちをかけていった。そのうちの一つが技術的な課題であり、具体的にはキックボードの耐久性の問題が挙げられる。Bird社が使用していた初期のモデルは、長期間の使用に耐えられず、頻繁な修理や交換が必要となった。これにより、運営コストがさらに増加し、収益性に悪影響を与えた。また、経営陣の戦略ミスも指摘されている。例えば、Bird社は一部の都市での規制強化に対し、積極的な対策を講じることなく運営を続けた結果、罰金や営業停止のリスクが高まった。これにより、ブランドイメージの低下や信頼性の喪失を招いた。さらに追い打ちをかけたのが、当社による不正会計だ。2020年、2021年に売上を水増ししていたことが2022年に発覚。その結果、株価は低迷することとなり、2023年9月には上場廃止に追い込まれた。そして2023年12月、ついに同社は破産に至ることとなった。
さて、最近ではここ日本でもシェアリング電動キックボード事業が注目を集めており、日本の場合はLuup社がその中心にいる。戦略系コンサルティングファーム出身の岡井氏が2018年に創業した同社は、現在では東京や大阪などの主要都市でサービスを展開し、2023年4月には45億円の調達を完了し、累計調達額が91億円に達する等、急速に成長している。
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【企業名】:Luup
【地域】:Tokyo, Tokyo, Japan
【設立年】:2018/07/30
【累計資金調達額】:$91M
【直近ステージ】:Debt Financing
【主な投資家】:ENEOS Innovation Partners, Obayashi Corporatio, Zenrin Future Partners, Bank of Kyoto, Credit Saison
【URL】:https://luup.sc/
同社はBird社とは異なり、創業当初より地方自治体と協力しながらビジネスを展開している点や、早期にプロダクトの完成度を高めている点が特徴的だ。サービスローンチ前の半年間は、自治体や大学の協力を得て、全国約30カ所の私有地で実証実験を行いながら、地元の関係者に説明して回り、地道に協力を取り付けていった。また、創業初期の2年間で電動キックボード車両を11回アップデートするなど、同社は早期にプロダクトを市場にフィットさせることに注力した。こうした活動の結果、従来スタートアップには非寛容的と思われていた日本において、シェアリング電動キックボード事業を地域に根付かせることに成功しつつある点は驚嘆に値する。
Luup社を中心とした日本の事業者には今後も継続的な成長を実現することを通して、日本に新しい移動手段を根付かせることをぜひ期待したい。シェアリング電動キックボード事業は、都市の移動手段として大きな可能性を秘めているが、その成長にはまだまだ多くの課題がある。Bird社の歴史から学び、持続可能なビジネスモデルと地域に根ざしたサービスを提供することで、次のステップへと進むことができるだろう。
出典:
https://edition.cnn.com/2021/05/12/tech/bird-spac/index.html
https://www.grandviewresearch.com/press-release/global-e-scooter-sharing-market
https://www.grandviewresearch.com/industry-analysis/e-scooter-sharing-market-report#:~:text=Report%20Overview,18.8%25%20from%202022%20to%202028.
https://type.jp/et/feature/19541/