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Zuva’s redflag startups: ピボットで蘇る:英国ユニコーンメタバース企業Improbableの復活劇

Zuva’s red flag startupsは、かつて注目されていたスタートアップのその後についてZUVAアナリストが解説するコーナーです。”red flag”とは英語で「注意を喚起するサイン」であり、注目された後に音沙汰がなくなったスタートアップや大きくピボットしたスタートアップなどを紹介していきます。


近年、グローバルなスタートアップ業界において、資金調達環境の悪化や市場の不確実性の高まりにより、多くの企業が厳しい経営環境に直面している。創業時のビジネスモデルが行き詰まり、方向転換を迫られるケースも少なくない。しかし、そのような逆境の中でも、ビジネスモデルの大胆な転換―いわゆる「ピボット」によって成功への道を切り開く企業が存在する。

今回は、英国のテクノロジー企業Improbableの事例を通じて、スタートアップにおけるピボットの重要性と成功への道筋を探る。

【企業名】:Improbable
【地域】:London, England, United Kingdom
【設立年】:2012/01/01
【累計資金調達額】:$704.03M
【直近ステージ】:Venture Round
【主な投資家】:Andreessen Horowitz, Horizons Ventures, SoftBank Vision Fund
【URL】:https://www.improbable.io/

(画像参照:https://www.instagram.com/a.j.interiors/p/COdkXhAAHzb/?locale=es_US%3FICID%3DBLOG_MBF_ES&img_index=1

2012年、ケンブリッジ大学でコンピューターサイエンスを学んだハーマン・ナルラCEOと、同じく技術者のロブ・ホワイトヘッドCTOによって設立されたImprobableは、当初はゲームやバーチャルワールドの可能性に着目していた。

同社が開発したプラットフォーム「SpatialOS」は、クラウドコンピューティングとブロックチェーン技術を組み合わせ、従来は不可能とされた大規模なバーチャルワールドの構築を可能にした。この革新的な技術は、ゲーム開発だけでなく、経済シミュレーションや都市計画など、幅広い分野での活用が期待された。2017年、ソフトバンクから5億ドルという英国スタートアップ史上最大規模の投資を獲得。評価額10億ドルのユニコーン企業となり、業界の注目を集めた。

調達した資金を活用し、ゲーム開発支援、軍事シミュレーション、メタバースインフラストラクチャーなど、様々な分野への展開を試みるも、大きな損失が続いた。特に2021年度には1億3100万ポンドという巨額の損失を計上。技術の優位性は認められながらも、ビジネスモデルとしての持続可能性に疑問符が付けられる状況となった。

この失敗の背景には、技術主導のアプローチと市場ニーズとの乖離があったと考えられる。高度な技術プラットフォームを開発したものの、それを収益化できる具体的なユースケースの確立に苦心していた可能性がある。また、複数の事業領域に同時に展開したことで、経営資源が分散し、どの分野でも決定的な競争優位を確立できなかったことも、収益化の遅れにつながったのではないだろうか。

この危機的状況を打開するため、Improbableは2022年に大胆なピボットを決断。メタバース体験の提供に特化したビジネスモデルへと転換を図った。具体的には、ブランドや企業向けにメタバース空間でのイベント開催やエクスペリエンス提供を可能にするプラットフォームの開発に注力。メジャーリーグベースボールの観戦パーティーやサッカーファン向けのメタバースイベントなど、スポーツ分野での展開を積極的に進めた。

この戦略転換は着実に成果を上げている。2022年度には損失を1,900万ポンドまで削減し、売上高は前年比2倍の7,800万ポンドまで成長。さらに2023年には、創業以来初めての黒字化を達成。売上高は6,600万ポンドに達し、1,100万ポンドの利益を計上した。

このピボットが成功を収めた要因としては、具体的な顧客ニーズに基づいたビジネスモデルの構築が挙げられるだろう。特に、スポーツイベントという明確な用途に焦点を当てたことで、顧客にとって価値提案が明確になり、収益化への道筋が見えやすくなったと推察される。また、同社のCEOが述べているが、「メタバース」という言葉にこだわらず、顧客が求める「インタラクティブな体験」の提供に重点を置いた実用的なアプローチも、成功の鍵となったと考えられる。

さらにImprobableは、2023年に再びビジネスモデルの転換を図り、ベンチャービルダーとしての新たな戦略を打ち出した。具体的には、自社のゲームサービス事業(MPGユニット)をアイルランドのKeywords Studiosに約7650万ポンドで売却。そして、AI、ブロックチェーン、メタバース分野での新規ベンチャー育成に注力する方針を明確にした。同社は今後2年間で、複数のスタートアップを毎年立ち上げることを目指している。

Improbableの事例は、スタートアップ企業の成長における重要な示唆を提供している。技術的優位性があっても市場ニーズとのミスマッチがある場合には、大胆な方向転換を躊躇してはならない。同社は一度に大きく方向転換するのではなく、メタバース事業への特化、そしてベンチャービルダーへの転換と、段階的にビジネスモデルを進化させていった。その過程で、自社の持つ技術基盤やノウハウを活かせる領域を選択しつつ、理想的なビジョンを追求しながらも、現実的な収益モデルの構築を重視している点は、多くのスタートアップ企業にとって参考になるだろう。

(参照)

https://thenextweb.com/news/virtual-worlds-unicorn-improbable-reports-first-profit

https://www.improbable.io/

https://www.sramanamitra.com/2018/01/11/billion-dollar-unicorns-improbable-joins-the-club/

Zuva Nicole

幼少期をデンマークと韓国にて過ごし、慶應義塾大学にて学士、ジュネーブ国際開発高等研究所にて修士。 世界最大の起業家支援ネットワークであるEndeavor Japanにて国内外のVCやスタートアップの調査業務に従事後、在欧州大使館にて日本企業支援を担当。150万社の先端的な技術を持つ企業データを保有する日本発スタートアップZUVAでは調査業務の他、パートナーシップデベロップメントやPR業務の統括を行う。

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