生成AIは製造業のオペレーションをどう変革するのか
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*この記事はAI Powered Businessから転載したものです。
昨今、生成AIを業務に活用したいというニーズが高まりを見せていますが、実際にどのようなユースケースがあるかについては、まだまだ探索している段階であることが多いです。
一方で海外では、生成AIのような新しい技術の活用を後押しするキーワードとして、Advanced Manufacturing(先端製造業)というワードに投資が集まっています。今回はこうした背景を踏まえながら、製造業においてどのような業務に生成AIが活用できるかについて、紹介していきます。
Advanced Manufacturingへの投資熱
製造業における生成AI活用の取り組みについて解説する前に、海外で先端技術を利用した製造業に対して、投資熱が高まっていることについて触れておきます。
例えばアメリカでは、Advanced Manufacturing Investment Credit(先端製造投資クレジット)という制度が2023年1月より導入開始されています。これは、納税者が使用開始した適格資産への投資額のうち、最大25%を所得税額から控除する、というものです。ここでいう適格資産とは、半導体製造専用の施設や関連機器、研究施設や保管施設などが含まれます。
参考:Use Cost Segregation to Determine New Tax Credit Eligibility
またイギリス政府は、2025年から5年間に渡り、Advanced Manufacturingに対して45億ポンド(約8,000億〜8,500億円)の投資を行うことを表明しました。分野としては自動車・航空宇宙、グリーン製造業(ネットゼロ・脱炭素・再生可能エネルギー等)など、多岐に渡ります。
参考:Advanced manufacturing plan
オーストラリア政府もAdvanced Manufacturingに積極的です。先端製造業に、150億オーストラリア・ドル(約950億円)を国家再建基金として投資することを発表しており、強力なバックアップ体制を敷いています。
参考:オーストラリア政府のAdvanced Manufacturingに関する声明
先端製造技術を持つスタートアップの資金調達
上記のように各国政府がAdvanced Manufacturingに多額の投資を行う動向を見せたことで、投資家の間でも投資熱が高まっています。
Advanced Manufacturingの追い風を受けた生成AIスタートアップの台頭
2023年12月現在、Advanced Manufacturingへの投資が集まる中、こうした潮流に追い風を受けて、生成AIを活用した製造業向けのプロダクトを提供するスタートアップが海外で台頭してきています。その中でも特に、業務を遂行する際に欠かせない「作業手順書」をデジタル化し、生成AIが扱えるようにデータ化するスタートアップが高い評価を受けています。
Retrocausal
Retrocausalは11月30日に、$5.3M(約7.5億円)の資金調達をしたことを発表しました。この会社は「Kaizen Copilot」という、業務プロセスを改善する提案を行うプロダクトを提供しています。
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🚀:Retrocausal
📍:Seattle, Washington, US
🗓️:2019
💵:$9.86M (2024年2月時点)
📈:Venture Round
💰:Argon Ventures, AVV, Differential Ventures
💻:https://retrocausal.ai/kaizen/
サービス紹介サイトのデモ動画を見てみると、生成AIの活用方法が画期的でした。
以下はKaizen Copilotの基本的な使い方です。
- 作業員の業務をスマホで動画撮影し、Kaizen Copilotにアップロードする
- その作業にかかる手順のStep数を選択すると、手順の数だけ動画が自動で分割される
- 分割された動画に紐づく形で、各手順で何をやっているかタイトルをつける
- 手順の記入が完了すると、作業全体にかかった秒数のうち、削減できる秒数とそれに伴う削減できるコストを算出した結果が出る
作業時間をどのように削減するかについては、各手順の順番を入れ替える、不要な手順を洗い出す、といった提案をするだけではありません。LeanGPTという、製造業に特化したマルチモーダル(動画・音声・テキストに対応)な独自の大規模言語モデルを利用し、作業に使用する部品の配置を動画から分析して、「この部品とこの部品は近くにおいた方が良い」といった配置の改善案も提案してくれます。
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作業動画から作成された手順書は、社内独自のナレッジとして蓄積されていきますが、既存の手順書をナレッジとして活用することも可能です。既存の手順書をアップロードすると社内専用のデータベースが作られ、LeanGPTがそのデータベースを参照して回答を返してくれます。現場作業の専門知識を持った人材の採用が困難である中、ベテランの方が持っているナレッジを蓄積し、新人や若手の作業員の教育として利用していくことが可能になります。
Squint
Squint も2023年11月に、$13M(約18億円)を調達しました。この会社もKaizen Copilotと同様に業務作業を撮影するのですが、Squintの場合はAR技術を搭載したスマホアプリを提供しています。
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🚀:Squint
📍:San Jose, California, US
🗓️:2021
💵:$19M
📈:Series A
💰:Menlo Ventures, Sequoia Capital
💻:https://www.squint.ai/
業務作業をスマホで撮影すると、作業員の動きを生成AIがテキストに起こし、デジタルの作業手順書が出来上がります。Kaizen Platformと似ていますが、SquintはAR技術を利用して、現場教育という点によりフォーカスしています。作業者がスマホアプリを起動し、これから作業する機械をかざすと、その作業を行うための手順が拡張現実上に記載されます。また、その手順書は後から編集が可能であるため、追記したい項目があれば自由に編集できます。もちろん、手順書をナレッジとしたチャットボットの形式による質問も可能です。その時に、どの参照した手順書も回答として返してくれます。
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生成AIが製造業のオペレーションをどのように変革するのか
海外スタートアップの事例を見てみると、生成AIは作業手順書の作成とデジタル化にかかるコストを、大幅に下げることに寄与しています。作業手順書がデジタル化されると、一度作成した作業手順書を後から編集することができるため、不備があれば更新し、常に最新の状態に保っておくことが容易になります。
それに加えて、手順書がデジタル化されることにより生成AIが参照できるデータとして保存できるため、従来であればベテランの作業者しか持っていなかった知識の継承や、教育にも活用できます。
まとめ
これまで見てきたように、生成AIは作業手順そのものを改善し、製造業の人材不足のギャップを埋めることを可能にします。生成AIを活用した製造業のDXは、Advanced Manufacturingの中でも特に、「AI Manufacturing」や「GenAI Manufacturing」として注目される領域になっていくことでしょう。